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名古屋高等裁判所 昭和52年(ネ)550号 判決

控訴人

三友株式会社

右代表者

三坂泰夫

右訴訟代理人

佐治良三

外四名

被控訴人

山崎きみゑ

外三名

右四名訴訟代理人

西村諒一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一名古屋市中区栄一丁目一一〇八番宅地九八坪五合八勺(325.88平方メートル)は、昭和四一年三月三〇日、土地区画整理法にもとづき名古屋市による換地処分によつて作られた土地(以下本件換地という)であること、その従前地は同市中区南伏見町九番の二宅地一五二坪六合(以下本件従前地という)であることは当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉を総合すると次の事実が認められる。

本件従前地はもと被控訴人らの先代山崎庸所有の同市中区南伏見町九番三三七坪九合五勺であつたが、昭和二二年六月一七日右土地のうち本件従前地に相当する部分について名古屋市により仮使用地が指定され、名古屋市中第二工区一八ブロツク一一番九九坪二合(以下仮使用地という)と仮番号新坪が定められた(仮使用地指定のなされた事実は当事者間に争いがない)。その後、同年八月二九日山崎庸は渡辺明・山崎佐一郎の両名に対し、右仮使用地を実測面積(実測の結果は右の指定面積とほぼ同じであつた)に坪単価を乗じた価額(金一七万八五〇〇円)で換地清算交付金について何ら特約することなく売渡した。そして、同年九月二日山崎庸は前記九番の土地から九番の二宅地一九一坪八合六勺を分筆した上、この土地について右買主両名に前記売買を原因とする所有権移転登記をなし、同年一一月二七日渡辺明は右土地についての自己の持分を山崎佐一郎に譲渡しその旨の所有権移転登記を経由した。その後、右九番の二の土地が契約より分筆されていたことが分り、山崎佐一郎は昭和二八年一〇月二四日右九番の二の土地から更に三九坪二合六勺を分筆してその部分を山崎庸の相続人である被控訴人らに所有権移転登記をしたので、その結果山崎佐一郎は登記簿上本件従前地一五二坪六合を所有することとなつた。そして昭和二九年一二月二五日本件従前地について特別都市計画法にもとづく換地予定地として中第二工区一八ブロツク一一番九八坪四合四勺(以下仮換地という)が指定された(仮換地指定の事実は当事者間に争いがない)。右の指定された仮換地の範囲は前記仮使用地と同一であり面積の差異は測量誤差によるものである。その後昭和三九年四月一八日控訴人は山崎佐一郎から本件従前地を買受け(この事実は当事者間に争いがない)、仮換地の面積で代金を算定し、右従前地について所有権移転登記を経由し、更にその後行われた前記換地処分により本件換地の所有者となつた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二次に昭和四一年八月頃以降名古屋市が本件換地に対する清算金二一一万二五八六円及びその利子金二〇万七九〇〇円合計金二三二万〇四八六円を右土地の所有名義人である控訴人に支払つた事実は当事者間に争いがないので、右の清算交付金に対する権利の帰属について判断する。

一般に土地区画整理事業において面積・価額につき従前地に照応するだけの換地が定められることは通例ありえないから、前者よりも後者の価額が小であれば、その権利者は何らの代償なくして損失をこうむることになり、このような不公平をなくし、右の損失を補償する趣旨で施行者が支払うのが清算交付金の制度であると解すべきである。

そして、右の制度の趣旨から考えれば、仮換地指定処分がなされた後、換地処分がなされるまでの間に仮換地に対する権利移転の目的で従前地の売買がなされ従前地の所有権が移転した場合において、売買当事者が清算金の交付請求権について何らの合意をすることなく仮換地の価額によつて売買代金を決定し、その後右仮換地が予定どおり換地として定められたときは、右の清算金交付請求権は売主(従前地の所有者)に帰属するものと解するのが相当である。この点に関し控訴人は、名古屋市周辺部において仮換地指定処分のなされた土地の売買にともなう清算金についての権利義務は買主に帰属するとの事実たる慣習がある旨を主張するが右を認めるに足りる証拠はない。

三ところで控訴人は山崎庸が昭和二二年八月二九日に渡辺明・山崎佐一郎の両名に本件従前地を売渡した当時、まだ特別都市計画法に定める換地予定地の指定がなされていなかつた旨を主張する。

右売買のなされた当時、本件従前地のもとの土地である九番の土地の一部につき名古屋市による仮使用地の指定がなされていたこと、右の売買はこの仮使用地の範囲についてなされたものであることは前示のとおりであるけれども、右の仮使用地指定の処分が当時施行されていた特別都市計画法一三条一四条による換地予定地の指定処分と異なるものであることは明らかである。そして、〈証拠〉によれば、名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業施行者は、昭和二二年当時、その前年の九月から施行された特別都市計画法の規定にしたがつて換地予定地を指定するためには、土地区画整理委員会の成立等の手続を経ることを要するので、これらを待つては時機を失し戦災後の土地区画整理事業を速かに行なうことはできないと考え、換地予定地に相当するものとして、直ちに「旧来の慣用」に従つて仮に使用し又は収益すべき土地として仮使用地の指定をしたこと、そして右指定後にこれを土地区画整理委員会に諮問した後、右仮使用地について特別都市計画法による換地予定地の指定をしたこと(この換地予定地はその後昭和三〇年四月一日土地区画整理法の施行に伴い、同法による仮換地とみなされることになつた)が認められる。右の仮使用地指定の処分の法律上の根拠は必らずしも明白ではないけれども、この処分は名古屋地区における戦後の都市計画を速かに実施するために名古屋都市計画事業復興土地区画整理事業施行者と土地所有者との間の土地の使用収益、区画整理について将来の換地処分を予定した合意にもとづいてなされたものであつて、それなりの合理性を有するものと認めるのが相当である。

したがつて本件仮使用地の指定は特別都市計画法による換地予定地の指定と同視すべきものであるから、控訴人の前記主張はこれを採用することができない。

四次に〈証拠〉によれば、前示のとおり昭和三九年四月一八日、控訴人は山崎佐一郎から本件従前地を買受け、その代金については仮換地の実測面積によつてこれを金一億一八〇〇万円と定めたが、その際換地清算金についての権利義務はすべて控訴人に帰属することを佐一郎と合意したこと、控訴人は本件仮換地上に親会社の株式会社山口銀行名古屋支店の店舗を建築し、換地処分がなされた後も引き続き本件換地を利用していること、以上の事実が認められ他に右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば控訴人は本件従前地を山崎佐一郎から買受けたけれども、その代金としては本件仮換地の面積を基礎として算出されたものを支払い、その後は右の仮換地及びこれと同一の範囲で定められた本件換地を引続き使用しているものであるから、本件換地の面積が本件従前地よりも減縮したことによる損失の補償という性質を有する本件交付清算金を受領すべき理由はない。更に、清算金に関する権利義務についての山崎佐一郎と控訴人との間の前認定の特約があるからといつて、元来従前地の所有者であつた山崎庸に帰属する本件交付清算金債権が控訴人に移転するいわれもないというべきである。

したがつて、控訴人が前記のように本件交付清算金を受領したことは法律上の原因を欠き、不当利得となるものであるから、控訴人はこれを本件従前地の所有者である山崎庸に対して返還すべきである。

五次に〈証拠〉によると、山崎庸は昭和二三年四月一三日死亡し、被控訴人山崎きみえがその妻として、その余の被控訴人らがその子として、それぞれ法定相続分にしたがつて右山崎庸の権利義務を相続したことが認められるので、控訴人は前示の金二三二万〇四八六円につき、被控訴人山崎きみえに対してはその三分の一、その余の被控訴人らに対しては各その九分の二の金員を支払うべき義務があるといわねばならない。

六よつて、控訴人に対し、被控訴人山崎きみえが金七七万三四九三円、その余の被控訴人らが各金五一万五六六二円(以上の金額が前認定の金額の範囲内であることは計算上明らかである)及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四六年四月二五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める被控訴人らの本訴請求はいずれも正当として認容すべきところ、これを認容した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(秦不二雄 三浦伊佐雄 高橋爽一郎)

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